食べ物の細目

食べ物の細目

薬草イラスト

食養生の基礎 ダイコン

 

ダイコン
[気味]辛・甘、微涼
[帰経]肺・胃
[主治]五臓の機能を高め、食べ物を消化し、痰を除き、吐血・鼻衄を止め、麺類・
魚肉・豆腐の毒を解す。(消食化痰・下気寛中・清化熱痰・散瘀止血)。

 

ダイコンの葉
[気味]辛・苦、温 [帰経] ―
[主治]葉は食の滞りを消し、気を調えるなどの効能があり、下痢・喉の痛み・乳の腫れなどを治す。乾かした葉や茎は、よく湿を去り、血を和し、小水の出をよくする。乾燥した葉を入浴剤に使うと体温が温まり、冷え症や神経痛、腰痛、リウマチ、痔などに効果があります。

 

干しダイコン
[気味]甘・辛、温
[帰経]肺・胃
[主治]身体を温め、血行を促し、便通を調え、利尿効果もあります。千切りにして太陽で乾燥させ切り干しダイコンにすると煮物によく、病人には身体を温め血行を促すので特に大切です。便通を調え、利尿の効果もあります。

 

羅蔔(だいえ)はあまからくうん きをくだす しょくをけしつゝたんをさるなり(大根は甘く温、気を下だし、食を消しつつ痰を去るなり)

だいこんはとうふのどくをけしにけり 又はすハぶきとむるものなり(大根は豆腐の毒を消しにけり、又咳を止めるものなり)

だいこんを血をはく人にもちゆべし 中をあたゝめふそくおぎなふ(大根は血を吐く人に持ちゆべし、中を温め不足を補う)

だいこんは人をこやしてすこ屋かに はだへこまかにいろしろくする(大根は人を肥やして健やかに、肌細かく色白くする)

(橋本竹二郎訳『和歌食物本草』)

 

ダイコンは日本人の食物として昔から親しまれてきましたが、実は古代エジプトやギリシャ、ローマでも栽培していました。原産地の地中海沿岸のハツカダイコンの系統のものが、古い時代に陸路インド、中国、朝鮮をへて、わが国に渡ったとされています。

江戸中期以降太平の世が続き各地に篤農家(とくのうか)(熱心で,研究心に富んだ農業家)ができ、種苗の交流・交換により品種の改良が加速されました。『尾張名所図会』に「「落合の支邑宮重村に産す。当国の蘿蔔(すずしろ)は、尾張大根とて、他邦に類ひなき名物なり。そのうち当所の産を第一として、国君より京都また関東へも御進献あわせられ、その外諸侯方へも贈り給へ。」と、今日の大根の元祖・宮重大根が誕生しました。五代将軍綱吉が左馬頭のころ脚気を患って下練馬に殿舎を建て療養したとき、この尾張の宮重大根を取り寄せて栽培させたのが練馬大根、これを沢庵漬にしたので一躍有名になった。以来日本には大根王国といわれる程の品種が出来てきました。

ダイコンの呼び名については、八世紀の始めに成立した古事記(巻十一仁徳天皇)に仁徳天皇がお后(きさき)の嫉妬をなだめる歌謡にでています。

「つぎねふ 山背女(やましろめ)の 木鍬(こくわ)持ち 打ちし大根(おほね) 根白(ねじろ)の 白腕(しろただむき) 纏(ま)かずけばこそ 知らずとも言はめ」

(意味は、山背の女が木鍬で掘り起こした大根のようにみずみずしく真白に腕を、私に巻きつけたことがないならば、私のことを知らないといえようが、愛の日々を思いだして欲しい)

とあって、大根を「於朋泥(おほね)」と書かれていたとか。これを「大根」と書き、後代になって漢読みにして大根と呼ぶようになったと言います。古事記や日本書紀の大根(おほね)も腕を纏(まと)ったというのだから差ほど太いものとは思えません。漢名は盧葩(ロホー)・蘿蔔(ラフク)(すずしろ)・莱服(ライフク)など。

大根は心霊を宿す植物として神聖視され、ハレの日の供物や食物とされています。

 

ダイコンとしての一番の特徴は、天然の消化酵素を持つことです。

アミラーゼの一種であるジアスターゼというデンプン分解酵素を含んでいることからダイコンは消化酵素の塊でもあり、「あたらない」野菜として良く知られることになります。

ちなみに、このジアスターゼは熱に弱いため、効率よく摂取するためには、生で食べる必要があります。

ダイコンおろしなどで生食することが一番その効果を期待できるのです。

ダイコンは、すりおろすことによって独特の辛味(イソチオシアナート)が出て、それが体にとても良いです。この辛味成分は、免疫力を高めたり、がん細胞を抑制したり、殺菌や消化を高めたりするという効果があります。この辛味成分は、皮の部分に近いところに多く含まれているので、大根おろしにする時はなるべく薄く皮を剥いて使うのがおすすめです。また、加熱すると減少してしまうビタミンCや消化酵素なども、大根おろしにして生で食べることにより、効果的に体内に取り入れることができます。大根をおろしにすると、20分後には80%に減ってしまいます。また、セルロースやペクチンなどの食物繊維も豊富です。そのため、便秘改善にも優れた効果が期待できます。リグニンと呼ばれる食物繊維はがん細胞の発生を抑制することもわかっています。

この辛味成分はしっぽの部分に多く含まれ、細胞の破壊が細かいほど辛くなります。

ダイコンの葉はカルシウム、カロテン、ビタミンC、食物繊維を含み、小松菜やほうれん草に匹敵する緑黄色野菜です。これらビタミンやミネラルは、がんや心疾患などの生活習慣病を予防し、体の機能を維持し働きを調節して骨粗しょう症などの予防が期待できます。
特に根の部分には含まれていないカロテンは、皮膚や内臓の粘膜を強化し、ウィルスへの抵抗力を高めるはたらきがあり、胃腸を強くし、がんや骨粗しょう症、便秘の改善に有効です。購入する際には葉付きのダイコンを選び、必ず利用したい食品です。
また、ビタミンCとともに多く含まれるビタミンPは、毛細血管を柔軟に保ち、皮膚に栄養を運んで潤いを与えるとともに、ビタミンCの吸収を助けるはたらきがあります。肌荒れを体の中から改善し、美しく保ちます。
薬用では、下痢、乳腫、乳汁分泌障害、痰、咳、のどの痛みに用いられます。
干した葉を布袋に入れて口を縛り、風呂に入れると、体を温め、神経痛や冷え性などにも効果があるといわれています。
 切干ダイコンはダイコンの根を細切りにして天日干しした保存食です。干すことによって旨味と風味が増し、ビタミンC以外は栄養価も増します。また、生のダイコンは体を冷やすので、冷え性の人には向きません。このような場合は切干ダイコンを使った煮物や料理にすると、胃腸を温め、消化・吸収能力が高まります。カリウム、カルシウム、ビタミンB群が、高血圧、骨粗しょう症を予防し、疲労回復にはたらき、たっぷりの食物繊維が便秘改善にはたらきます。腸内の異常発酵も防ぎ、血液をキレイにして細胞の老化を防ぎます。ダイコンの皮にはカルシウム・ピタミンPなどの多く含まれ、細胞を強め、血管を強化するので、細いせん切りのきんぴらゴボウなどにしてたべましょう。

 

大根を食べる

・たくわん

各食材・調味料・薬味の四気・五味・効能

・干し大根は、甘味と辛味があり身体を温める性質がある。効能は、病人には身体

を温め、血行を促すので特によい。便通を調え、利尿効果もあります。

・塩は、甘味と鹹味があり冷やす性質がある。効能は、脾胃を調和し、食べ物を消化し、食中毒を解す。

・砂糖(白)は、甘味があり、身体を冷やす性質がある。効能は、心肺部を潤化し、酒毒を解す。

・米ぬかは、甘味があり平性の性質である。効能は、腸胃を通開し、気を下し、積(気が積して痛みを起こす)を解す。

・干した果物:柿・りんご・みかんの皮を適宜

・クチナシは、苦味があり身体を冷やす性質がある。効能は、黄疸、嘔吐、充血、ふけ症、のぼせ。

・トウガラシは、辛味があり身体を熱する性質がある。効能は、香辛料として胃液分泌を増進し、食欲増進。身体を温める。

・昆布は、甘味と鹹・酸味があり身体を冷やす性質がある。効能は、積堅を破り、水腫を利し、瘰癧を消す。

考察

たかが漬け物、されど漬け物といいえます。陰陽(寒熱)のバランスがよく、干し大根は温性ですが、薬味や調味料によって平衡がとられています。五味、臓腑経脈ともに全てに配されています。

食事の最後に、漬け物と番茶を頂くことによって、食材の栄養が全ての臓腑に行き渡ります。

(番茶は、苦味と甘味があり、少し冷やす性質がある。帰経は、五臓と胃である。効能は、頭目を清くし、熱気を破り、気を下す。精神活動を活発化し食欲増進に役立つ。但し、熱くして飲むのがよい。)

 

・紅白なます(大根とニンジンのなます)

材料:大根1/2本、にんじん1/2、柚子 半分~1、塩 小さじ2、砂糖 大さじ3、酢 大さじ5~6

各食材・調味料・薬味の四気・五味・効能

・大根は、辛味と甘味があり身体を少し冷やす性質がある。効能は、五臓の機能を高め、食べ物を消化し、痰を除き、吐血・鼻衄を止め、麺類・魚肉・豆腐の毒を解す。

・人参は、甘味と辛味があり身体を温める性質がある。効能は、気を下し、腹中を補い、胸膈・腸胃を利し、五臓を安んじ、人の食を健やかにする。

・ユズの皮は、苦味と辛味があり身体を温める性質がある。効能は、気のイライラを除き、酒気を去り、食物の五気を和し、生臭さを除き魚・茸類の毒を解す。

・塩は、甘味と鹹味があり冷やす性質がある。効能は、脾胃を調和し、食べ物を消化し、食中毒を解す。

・砂糖(白)は、甘味があり、身体を冷やす性質がある。効能は、心肺部を潤化し、酒毒を解す。

・酢は、酸味と苦味があり温める性質がある。効能は、食欲不振・消化不良・食中毒を消し、痰(水毒の一種)・血病を遂い、魚肉菜および諸虫の毒気を殺す。

考察

食材の気は平性、薬味・調味料のユズと酢が温性、塩と砂糖が寒性であるため、全体としては平性となります。五味は全てに配されて、臓腑経脈もバランス良く帰入しています。

温性から熱性の食べ物を多食する正月、おめでたい紅白のなますを食べ、少し冷やすのも大切です。また、

ダイコンやユズの皮・酢・塩による魚・肉・菜・茸などの毒を除く働きにより胃腸を整え、食中毒の予防にも期待が出来ます。

ダイコンの根は「顔色をよくし、五臓の機能を高め、気血のめぐりを促し、関節に効き、気を下げ、身を軽くする」ほか、「色白の浄らかな肌になる」と古代中国の医書に書かれています。またダイコンの酢の物は、腫毒を消すとも説いていて、なますがお節(せち)料理に使われるのも理解できます。

 

・ダイコンおろしとチリメンジャコ

各食材・調味料・薬味の四気・五味・効能

・大根は、辛味と甘味があり身体を少し冷やす性質がある。効能は、五臓の機能を高

め、食べ物を消化し、痰を除き、吐血・鼻衄を止め、麺類・魚肉・豆腐の毒を解す。

・チリメンジャコは、甘味と鹹味があり身体を温める性質がある。効能は、気血を生じ、営衛を長じ、肌肉を滋し、筋骨を壮にし、臓腑・経脈に通じさせる。人体では脾胃の土精を滋養し、穀気を引き出し全身に行らせる。

・ネギは、辛味があり身体を温める性質がある。効能は、風邪の発熱悪寒を除き、顔や目の浮腫を治し、よく汗を出す。一切の魚肉の毒を解し、強力な殺菌作用もある。

・しょうゆは、鹹味と甘味があり少し冷やす性質で黒色です。効能は、一切の飲食および百薬の毒をも消す。

考察

食材と調味料の4種類ですが、シンプルな中にも凝縮した味わいがあります。四気は平性で、五味は甘味・辛味・鹹味に配されて日本食の原型のようなものです。臓腑経脈は全てに帰入しておりとてもバランスがとれています。

「ダイコンおろしとチリメンジャコ」を単味で食べるのもよいのですが、魚や肉と共に食べると、魚や肉の毒を解し、寒熱のバランスも調えてくれます。

ダイコンの効能は、「五臓の機能を高め、食べ物を消化し、痰を除き、麺類・魚肉・豆腐の毒を解す。」ので、サンマや豆腐、肉などにかけて食べるのは、これらの身体に対する弊害を除く働きもあるからです。

チリメンジャコは、江戸時代の人見必大著『本朝食鑑』に「陰を滋し、陽を壮にし、気血を潤し、筋骨を強くし、臓腑を補い、経絡を通し、老を養い、弱を育て、人を肥健にし、長生きさせる。」と記されています。私たちの身体の陰陽気血(エンジンとガソリン)を生みだし、身体の内外の機能を高め、肌肉・臓腑を滋養し、身体中の流れをスムーズにする働きがあり、長寿の食べ物と書かれているように、素晴らしい食材でもあります。